第15回睡眠睡眠環境シンポジウム
  1999年10月15・16日   於)横浜国立大学


発表原稿
睡眠環境改善 第三の鍵
共生〜共眠

anmin.com ウエッブマスター 三島治



1. はじめに

 21世紀を迎えるにあたって人類は否応無しの認識をすなわち
「人盛んなりて 天に勝ち 天定まりて 人に勝つ」の理を
そのまま認識させられる世紀末に立たされているように感じさせられます。

 とりわけ「睡眠」は畏れ多き天の領域であったにもかかわらず人類はこの近代において
「睡眠」を征服しようとした不夜城・24時間都市の構築やはたまた生産性優先の24時間勤務に準じた
「人工的睡眠シフト」を構築しようとしてきました。

 世の中は何かと便利に、より機能的に作動するようになりましたが、同時にさまざまな弊害も誘発しています。
5人に1人の割合で何らかの形で睡眠覚醒障害を訴えるという調査結果、
子供たちにも「学童期シンドローム」や「キレる」に表現されるストレス症の発生と
「睡眠」を征服しようとする動きへの警鐘が各所で見受けられるようになりました。

 私は、最も川下でより良き睡眠環境の提供者として寝具店を経営させていただいている身の上です。
寝具小売業界を取り巻く状況も極めて厳しいものであり、今後店を存続するには役に立つ存在でなければならないと
自らに言い聞かせており、ここにいろいろな勉強をしなければ役に立つ存在になり得ないと言うことで
あれこれと学ばせていただく身の上でもあります。

2.睡眠環境改善への実践活動
 
「より良き眠りの提供者を目指します」と看板を掲げておりますと、
店頭へ「よく眠られない・寝ていて朝起きると疲れている・肩がこる・・
これはどうやら枕が原因ではないのでしょうか?」とお客様がおみえになる。
そこで私の先輩であり毎年この睡眠環境学会で枕の研究発表をされている加藤勝也氏はじめ多くの方から
学ばせていただいたことを中心に、お客様には枕の高さなどを測って、実際に横になってもらいながら、
現在の睡眠環境の様子や困っている症状などについてもいろいろと伺いながら
その方に合った枕を提案いたします。
お客様は納得してお帰りになられます。そしてしばらくしてからこちらも気になりますから、
お電話を差し上げるようにしております。たいへん寝心地が良いとお喜びになる方が大勢いらっしゃいます。
また8割近くの方が肩こりの軽減やら目覚めたときの気持ちよさをお答えいただいております。

 このように、より良い睡眠環境を構築する上で「正しい寝姿勢のキープ」のために枕は重要なポイントです。
しかし、枕は大きな役割をもちながらもポイント(点)であります。
頚椎を支える一点ですが、その点のグランドコンディション=すなわち面にあたる敷き寝具のことが
次に問題になってくるのであります。
 私は日頃、睡眠環境を点検するための重要なポイントとして3点を挙げているのですがここで問題になるのは
まず、一点目の「正しい寝姿勢」と言うことです。

この点がクリアできると次の課題は寝床内気候の湿度の点が問題視されます。
快適寝床内湿度は50%、何とかこれをもクリアしていただきたいと申し上げております。
最後に温度が出てくるのですがこれは寒すぎてもいけませんし、またこちらも寝具を取り扱うものとして不用心でしたが、
暖かすぎてもいけません。おおむね33℃くらいをキープしていて欲しいと申し上げています。

 そんな、こんなで、お役に立とうとするのですが、それでもまだいけないと言う事がよくあります。
さらに寝床から空間に移り、、光、香り、空調等々の環境に波及していきます。
もっとも私の能力ではなかなか改善し得る範疇ではありませんから、専門家とのネットワークを構築して
目の前のお客様の役に立とうとするわけです。

 このように睡眠環境を考える上で、物理的な寝床から空間に至る睡眠環境を第一として、

 第二にはその方の身体の状況、心やすまるという表現を使えば、睡眠をとる身体そのものの健康状況、すなわち
身体的環境が第二と言えましょう。
身体つくりの面で人は1日に30品目の食品の摂取が不可欠とされていますが、実際、現実の食生活だけでは
●加工食品や外食の日常性による栄養摂取の偏り
●土壌や栽培方法の変化による食品類の栄養価の低下
●ストレスによる栄養素の消耗
と言った理由から栄養不足が必至であります。補助食品が必要になりますし、また身体的な問題に直接に指導できる医学の専門家の方々と言うことになりましょう。

3.睡眠環境改善の第三の鍵

 さて、上に掲げた第一、第二の睡眠環境はしっかり整いましたのにそれでもまだぐっすりと眠ることができない。
この領域はいったい誰が踏み込んでくれるのでしょうか?ここに「第三の鍵」を提示していきたく思います。

 見渡せば混乱する世界経済、それに伴うリストラ等困難な人間関係、崩れていく教育……
ここ数年、本当に時代の大きな曲がり角に立たされているなあと感じています。私のように片田舎で生活しているような者でも、
この日本のみならず、地球規模での変化の最中に生きているのだなあと感じずにはいられません。

 そして、今ここを乗り切り、人類全体が気づきはじめていることが、きちんとした価値体系として
世の中の物差し=グローバルスタンダードとなるべく、何かに気づき始めている時であるとも思います。

 世界中が平和に、こころ安らかに暮らすことの出来る「新しい時代」の「眠り」は現在の眠りよりも良質のものでありましょう。
ならば逆に新しい時代は「眠り」の認識〜革新から始まると言っても良いかもしれません。
冒頭に掲げた「天定まりて、人に勝つ」時代とでも言うのでしょうか。

 世の中の現状と方向性を示すのに「書籍の流行」が確かなメルクマールとなっているようです。
そして、最近の本の流行が「自己啓発本」の類であります。
 社会はリストラの嵐が吹き荒れて、家庭でも、クラス崩壊の学校でも、なかなか個人の力ではどうすることも出来ないような状況下。
書籍の人気もはかって流行った、なんとかしようという「超勉強法」から「癒し」に変わって来たようです。
 これらに対してはどうも現実から目をそむけた「逃避」であるとの批判もありますが、本物だというものも、かなり出てきているように思います。

 そのひとつに「いのち」のあり方を分かり易く語っている「葉っぱのフレディ」もビジネスマンにも好まれる絵本として
著名なベストセラーであります。
 また、春日大社宮司の葉室頼昭博士の著書。この方の経歴もたいへんかわった人で、
公家の出で学習院のご出身・大阪大学医学部を卒業した形成外科の世界での世界的オーソリティと言う立派な医学博士です。
それが還暦のお年になる頃から日本の神道の最高峰である奈良の春日大社の宮司さんをおつとめになっている。
と言う方でその著書「神道のこころ」も、極めて狭い神道の世界の本であるにもかかわらず、売上部数が上位にランキングされています。

 日本には昔から「言霊信仰」と言うのがあって言葉一つ一つに意味があったと言うことでしたが、
古代日本には文字はなく「語り部」稗田阿礼によって語られた史実を、
それを当時の知識人である太安万侶が大陸から渡ってきたばかりの漢字にいちいち書き写したのが我が国・最初の書き物「古事記」で、
漢字に書き換えることで、本来の意味から脱してしまったところも多々あるようです。

 例えば稗田阿礼がしゃべった「かみ」と言う言葉を太安万侶は「神」とかいてしまったら、唯一の「神=ゴット」となってしまって
稗田阿礼の言った「かみ」と言う日本語とはずいぶん違ったものになってしまったようでした。
日本語の「かみ」はゴットという意味ではなく、敬語だそうです。例えば山田様、田中様、こういう「さま」同様、
敬語の最高の敬語の意味で「かみ」だそうです。
だから本来は天照さま、春日さまとその神の上には必ず名詞がつくようなのです。
「かみ」の「か」は肝臓の「肝」とかお菓子を入れる「缶」とかものを入れる包容力のあるもの、
宇宙の神秘を包み込むものの意味を持っていて大いなるもの、偉大なるものをさしているようで、
「かみ」とか「うみ」というのはに使われる「み」も「身」や満ち満ちての「満」と言う意味を含んでいて
宇宙の神秘、命の神秘などすべてに満ち満ちたすばらしいお方様と言う意味だそうです。で最高の敬語としてあったようです。
 
 また「いのち」という言葉にしても「生命」と漢字で書くからよく分からないようですが、
そもそも日本語は本来ひらがなで、本当は「いのち」と書くのだそうです。
つまり、「い」きるため「の」「ち」え(生きるための知恵)という意味だそうです。
「生きる」と「いのち」は違うようです。
「生きる」というとマラソンでゴールするようなもので、「いのち」というとリレー競争のようなもの。
ゴール(生きる)した後、次へバトンタッチしていくことにより「いのち」が永久に継続すると言うことだそうです。

 さて、寝ると言うことについても、同様に日本では眠ることを
「寝ること、寝入ること=子(ね)に入る」こととしていたようです。
これは、どういうことかと言えば、子(ね)は子・丑・寅の十二支で北を指していて、この子の方角にはあまたの神々が住んでおられ、
子の国は神の国とされていました。
なるほど神社仏閣は南を向いていますし、私たちもお賽銭(さいせん)をたいがいは北の方角に向けて投げ入れ、
北に向かって祈りを捧げています。眠る行為は、そんな神の国に入る行為とされていたようです。
 今でも亡くなった人は北向きに寝かされ、あの世に還っていくと言う意味がありますが、
かつては毎日の暮らしの中に子に入ることがあり、眠ることはあの世へ行くこと同様に神の国へ行くことだったようです。
 魂が永遠で肉体から抜け出た魂があの世へ行って帰ってくる、その繰り返しが生まれかわり(=輪廻転生)の思想です。
同様に、毎日眠ることによって魂が子の国(神の国)に行って戻ってきてはまた新しい生を授かると考えられます。

 まさに「子に入って」この永遠の「いのち」をくりかえしていくと言うことになりましょう。

 こんな「眠り」観を持てば、まさしく今日一日に生きる「朝に道を聞いて夕べに死すともかなり」の潔い考え方に繋がるのではないでしょうか。
 それはそうと、ちょっと余談にもなりますが、子の国の方角に向かっての「北枕」。
風水の考え方からも眠るときは北枕が良いとされています。なるほど地球が北極南極を軸に回転しながら太陽の周りを回っていていることを思えば、
北半球における北枕、南半球における南枕は、地球の回転軸と重力との関係から最も安定した横たわり方と言えるでしょう。

 そのようなことが最近、話題に上っているようですが
「新しいこととは忘れ去られたことに他ならない」と言われますが古人たちは生活の中に
しっかりとした生きる指針〜眠り観をも持っていたようであります。

 また、縁あって私の学生時代は福島大学で日本経済史、史的唯物論を専攻してきましたが、その唯物論の砦のような大学の学術論文「商学論集」に
飯田史彦さんという若き助教授が「生き甲斐の夜明け」という魂に関する論文を発表してしまいました。
 魂は永遠でそれぞれ生きる意味を持って肉体を預かりこの世に生を受ける。肉体が滅んだ後も魂は不滅で
また、次の課題を解くために生まれ変わる。そのそれぞれに与えられた使命を全うすることに意味があり、そこに生きがいを見出すべきだ。
いろいろな状況はそれぞれに意味があり、魂が進化していく上で必要なことです。・・・・・
と、まあ、そんなふうに唯物論者の集まりのような学校に魂やら生まれ変わりに関することを正々堂々と書いてしまって
「生きがいの創造」等ベストセラーになっております。
 飯田氏はオカルト学者と言う批評を通り越して、生き甲斐の伝承者として社会的使命・確固たる市民権を獲得したようであります。

 そのように眠ることと死することの関係についてもいろいろと考察していくべきところに立っているようです。
悩める人々にもうすぐそこにまできた21世紀を、すばらしいものにするためにも、踏み込んでいく領域がこの「眠り」の世界ではないかと、
問題提示をさせていただくことにいたします。

 私たちの身体は宇宙と連動したリズムを持っていると学ばさせていただいております。
体内時計=サーカディアンリズムを乱すことによってさまざまな問題が生じているようにも聞いております。
とりわけ、少年犯罪の原因の一つにサーカディアンリズム(=体内時計)の狂いが挙げられています。
すなわち夜昼、逆になったような生活習慣が体内時計を狂わせ「キレル」状態を引き起こしているとの見解があります。

 現代社会において「心」がしっかりとやすまる環境=本当の眠りを子供たちに与えやるのも解決の一つです。
事実寝る子は育つと言われてきましたが、はたして現代の子供たちはしっかりとやすむ環境が、心がやすまる環境が与えられているのでありましょうか?
と、そんな心配も表面化してきています。道徳心とか倫理観の欠如を嘆かわしく思うと同時に「眠り」の環境の不安定を感じています。
「キレル」状態はサーカディアンリズムの歪みが起こしているのならば、まず正しい睡眠覚醒リズムに整えてあげる必要があります。
生活が夜型から人間本来の朝型に代えなければなりません。

 我が国最初の女性宇宙飛行士・向井千秋女史は宇宙から地球を眺め
「地球は生きている。そしてその中でわたしたち人間もすべての生命も共に生きている」と名言を残されました。
さらに昨年、二度目の宇宙飛行では地球を90分で一周するスペースシャトル・ディスカバリー号の中で
メラトニンの服用による睡眠の実験をされました。
結果に関して、ここでは発言できませんが、地球との共生と体内時計、そのホットな関係におけるメラトニンの果たす役割、
さらに本来メラトニンの体内製造機能についても明らかにされていくことでありましょう。

 地球と共に生きること、自然と共に眠ること、そこに「共生〜共眠」を掲げることが出来ますでしょうか。
 さらに,そのよい眠りのバロメーターはその方の生き方、良い「眠り」をとれる人はよりよい人生を歩める。
そこまでの「眠り」の認識アップとその「眠り」そのものを提供しつづることが生業となれたらと結びとさせていただきます。


参考文献 生きがいの本質 飯田史彦著 PHP研究所 生きがいの創造 飯田史彦著 PHP研究所 〈神道〉のこころ 葉室頼昭著 春秋社 葉っぱのフレディ バスカーリア,L.F著 童話屋


  日本睡眠環境学会