「しっぺい太郎」のお話


 その昔、いんたねっとは、遠江のほーむたうんいわたでは、お祭りの夜、村の女の娘を人身御供として物の怪に供えていました。
 毎年のお祭りが近づくと、ある朝何処からともなく白羽の矢が、美しい女の娘の居る家の屋根にたつのでした。その家は、嘆き悲しみ、家族と泣き暮らしお祭りの日を迎えるのです。でも、しかたがないのです。村の人達が災害に襲われたりせず平穏に暮らすためには、物の怪を怒らせてはらないのです。お祭りの日、選ばれた家の女の娘は櫃に入れられ、物の怪に供えられのです。


 とあるお祭りも近い日のこと、偶然旅の僧がほーむたうんいわたに宿を求めて来ました。娘を囲み嘆き悲しむ家族に出会い、そのわけを尋ねました。
「もし、いったい何をそんなに泣いてらっしゃるのじゃ?」
「お祭りの夜、この娘は物の怪に取られるのです。」
 聞けば不幸な慣わし、何とかできぬものかと、旅の僧は痛く同情したのでした。すると村人の一人が言いました。
「物の怪は丑の刻に出て来て、怪しげに鼓舞してうたうそうな。『信濃の国のしっぺい太郎はおらんじゃろな。』と。信濃の国のしっぺい太郎をひどく恐れているのじゃそうな。」
「なに、信濃の国のしっぺい太郎?それはいったいどういうお方じゃ?その方を訪ねて相談してみてはいかがじゃ?」
と旅の僧。


 旅の僧は、すぐに信濃の国を訪ねました。
「しっぺい太郎という勇士をご存じないか?」
信濃の国のそこここで、聞けど尋ねど何処にも知ってる人が居ません。途方に暮れた旅の僧は、駒ヶ根の茶店でひと休みし、ここでもしっぺい太郎を尋ねてみました。すると、傍らの人が
「光前寺の飼い犬が、しっぺい太郎ではなかったか?」とつぶやきました。
 はたして「しっぺい太郎」は、人ではなく、犬だったのです。旅の僧は、且つ驚き且つ喜び、早速光前寺にしっぺい太郎を訪ねました。
 灰色の毛色をした大きな体、勇猛かつ精悍な顔つき、これぞまさしく霊犬だと旅の僧は思いました。旅の僧は寺主に人身御供の話と物の怪が「しっぺい太郎」を恐れているらしいことを話しました。そして、しっぺい太郎を貸してもらえないかとお願いしました。 すると寺主は、
「その物の怪は、もしかするとこのしっぺい太郎にこの地を追われたモノかもしれんな。」


 旅の僧は寺主の免しを得て、しっぺい太郎を伴い、急いでほーむたうんいわたに戻りました。
 そしていよいよお祭りの日になりました。
 時はすでに午後を過ぎ、境内を閑寂がおそいます。夕闇が訪れる頃、いよいよしっぺい太郎を櫃に入れ、人身御供に替え廟後に供えました。
 丑の刻に至りて、廟社がにわかにしきりに振動したかと思うと、畏ろしい物の怪が3頭出て来ました。そして怪しく鼓舞してうたいだしました。
「信濃の国のしっぺい太郎・・しっぺい太郎はおらんじゃろな。」
 やがて物の怪がまさに櫃を捉えんとするその時、しっぺい太郎、櫃より勇ましく躍り出て、この世のものとも思えぬほどに猛然と吠え、物の怪に挑みかかり、挑みかかりして闘いはしばらく続きました。
 そして、力を尽くして遂に物の怪を倒しました。しっぺい太郎は深く傷を負いましたが、山々を越え、はるか信濃の国は駒ヶ根の光前寺に還っていきました。
 ほーむたうんいわたには、その後人身御供の慣わしは無くなり、人々の心は安らかに暮らしも豊かになりました。人々は「しっぺい太郎」に感謝し、永く心に留め、これを語り継いできました。


見付天神の「しっぺい太郎」

「HOME TOWN いわた」

M.Koyama